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勇気一つを携えて

 むかしむかし、あるところに、様々な鳥達の棲む島があった。
 美しい羽を広げて悠々と歩く孔雀。
 飛ぶことにかけては一、二を争う鷹。
 軽やかに鳴き声を響かす大瑠璃。
 鳥の楽園ともいうべきその島で鳥達は、それぞれの特長を自慢していたが、雉だけは、
(僕は孔雀ほど綺麗じゃ無い。飛ぶのは下手だし、鳴き声はキツいし……)
 と自信を持てずにいた。ただ、目は良かったので、海辺の見張り番を引き受けていた。
 
 ある夜、沖の方から舟が近づいて来るのが見えた。数匹の大きな鬼が、島に乗り込んで来たのだ。
「うおおお、ワシらは鬼じゃ、鳥どもよ、煮て食おうか、焼いて食おうか」
 そう言って鬼達は、ズンガズンガと島に分け入り、手当たり次第に鳥達を食らい始めた。
 しかし雉は、危険を知らせるどころか、恐くて繁みに隠れたまま、動けない。
 そうしているうちにも、孔雀は羽をむしり取られ、鷹は翼を引きちぎられ、大瑠璃は喉を握りつぶされて殺されていく。
 島は一夜にして、鳥の楽園から鬼が闊歩する鬼ヶ島へと変わってしまったのだった。
 
 雉は、鬼達が洞穴に入って出て来ないのを確かめると、必死になって島を飛び立った。沢山沢山飛んで、陸〈おか〉の人里までやってきた。一息ついた雉は、鬼ヶ島となった島の方角を見やり、仲間を見殺しにした自分を、
(僕には勇気の一つも無いのか)
 と、恥じた。
 ふと目をやると民家があり、そこには“桃太郎”という男の子がいた。一緒に住むおじいさんとおばあさんが留守の間、雉は、この愛らしい桃太郎を見守ることにした。
 その間にも鬼達は、次々と集落を襲い、食料や財宝を我が物にしている。
 
 やがて、桃太郎は十五の歳を数え、鬼ヶ島へ鬼退治に行く、と言い出した。
 それを聞いた雉は、
(僕に出来ることは無いのだろうか)
 と、思うようになっていた。
 数日後、桃太郎は、立派な衣装を着けると、おじいさんに宝剣を差してもらい、おばあさんには手作りの黍団子を腰に下げてもらって、鬼ヶ島へと出発した。
 その様子を草むらから見ていた雉は、
(そうだ、僕は鬼ヶ島への案内が出来るぞ)
 と、羽を振わせ自分を鼓舞し、仲間だった鳥達のために桃太郎と共に行こうと決心した。
 ついて行くためのきっかけは、何でもいい。
 そこで、桃太郎の目の前に現れると、
「黍団子、一つくれたら家来になるよ」
 と、雉は言った。

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作成 2022.03


テーマ “昔話:桃太郎”に登場する動物が桃太郎と出会う前の話を創る。
最後の一文は“「黍団子、一つくれたら家来になるよ」と雉は言った。”で結ぶ事。

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