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シルバー・サークル

 季節が巡るこの世界には、多種多様な動物が棲んでいます。
 各々が、生存する事に、精一杯の力を注いでいるのです。そんな動物達の、四季の物語を、少し覗いてみたいと思います。
 
 春。動物達は、新しい命の季節を迎えます。
 ほら、あそこに、大空を舞っている、一羽の銀色の翼を持つ鷹がいますよ。
『我が名は銀(しろがね)。春の空は美しく雄大だ。地上は活気に満ちあふれている。私はこの世界を守るが如く、空高く飛んでいよう。夏になれば、草原を走り渡る馬の群れがやって来る。その中に、灰色の躰(からだ)に銀のたてがみも艶やかな、一頭がいる。逞しいその脚で、草原を駆ける心地は、一体どういうものなのだろう。疾走する彼(か)の馬の姿に私は、一種の嫉妬にも似た感情を抱くのだ』

 夏。太陽の光が降り注ぐ中、動物達は、生きる事への喜びを爆発させます。
 ほら、あそこに、草原を走り抜ける、馬の群れがいますよ。
『我が名はアッシュ。夏の草原は美しく広大だ。生き物は太陽の恵みを受けて、命を謳歌している。私は草原を駆けながら、この世界を見つめていこう。秋になれば、兎の集団が冬支度のために、草原から森へと向かっていく。その中に、ふさふさとした柔らかな銀色の毛をした、一羽がいる。くるくると動く可愛らしさ、健気な姿に私は、守ってやりたい程のいとおしさを覚えるのだ』

 秋。収穫の季節に、動物達は、感謝の気持ちを持ちつつも、冬の厳しさに備えます。
 ほら、あそこ、森の中に、巣穴を掘っている兎達がいますよ。
『私の名前は銀子(ぎんこ)。体の毛の色が銀色だから、って付いたの。ほんと失礼しちゃうわ。でも、こんな事をのんびり思えるのも、今が実りの秋だからよ。冬になれば、森は一面の雪に覆われて、えさを探すのも一苦労なの。だけど一つ、冬には素敵な事があるのよ。森のはずれに、一匹の銀色の狼が現れるの。もちろん、見つかると襲われるから、遠くから眺めるしかないけれど、群れずに、気高く生きている姿に、憧れるのよね』

 冬。動物達には、試練の季節です。寒さに耐え、暖かな春を待ち望むのです。
 ほら、あそこに、森の中をひっそりと歩く、一匹の銀色の狼がいますよ。
『我が名はシルバー。冬の大地は凍てついて、吹雪に私の銀色の毛も、白くなびく。私は森での生活を守るべく、孤高を貫き、春を待とう。春になれば、大空に、一羽の銀色の翼を持つ鷹を見ることが出来る。空高く舞い飛ぶ感覚を、私も知りたいものだ。悠然と飛翔する彼(か)の鷹の姿に、私は敬慕の念さえ抱くのだ』

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作成 2023.05


テーマ “シルバー”という単語から連想するものでフィクションを創る。
 

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