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ライバル・アライバル(好敵手到着)

 ここは、とある美術館。
 浮世絵展覧会のメインコーナーに、喜多川歌麿の“当時三美人”が置かれています。
 会期中、日曜日ともなると、この浮世絵に人だかりが出来てごった返します。
 
 そんな様子を笑って見ている娘たちがいます。それはこの浮世絵に描かれている、豊雛(とよひな)、おきた、おひさの三人でした。
「ねえ、あの人、立ち姿がいい素敵な殿方ね」
 一番年下の、浅草育ちのおきたは、男性と見るとすぐに品定めを始めます。
 それを聞いたおきたより一つ年上の、両国育ちのおひさが、
「まあ、はしたない。水茶屋娘の恥よ」
 と、姉さんぶります。二人は水茶屋の娘で、今で言うアイドル的存在でした。
「何よ。目の保養よ。ねえ、豊雛姉さん」
 話を振られた豊雛は、巧みに富本節を語る、吉原芸者の第一人者でありました。
「気になるお人は、私達には必要かもねぇ」
 艶っぽく微笑みながら言った豊雛は、二人の幼さに目を細めます。でも豊雛も、おひさと三歳違いのまだ二十歳なのです。
 
 さて今日は、会期中日(なかび)の平日。
「今日は鑑賞する人が少ないわね」
 おきたが残念がると、おひさも、
「長い時代の変化を絵の中から見てきたでしょ。私、現代の洋装をもっと見たいのに」
 と同調しました。おひさはおしゃれに興味があるようです。
 暫くして、カツンカツンとハイヒールの音が近づいて来ました。京都のファッションリーダー、祇園三姉妹が現れたのです。
 三十路(みそじ)を少し過ぎた三姉妹の出で立ちは、盛り髪頭に帯を模したレザーの太いベルトをした丈の短い洋服で、際立って自信に満ちて会場を闊歩しています。
 長女・結子(ユウコ)のすらっとした足。
 次女・心美(ココミ)のくりっとした目。
 三女・杏里(アンリ)のしゅっとした小顔。
 指先から宝石入りの付け爪が光を放ちます。
 どれも“当時三美人”には無いものでした。
「何あれ! 変な恰好!!」
 浮世絵の前を去る祇園三姉妹の背に、おひさが声を震わすと、おきたも腹を立て、
「オバサンが盛り髪するんじゃないわ!!」
「京女も落ちたものね……」
 豊雛も言ったものの、“当時三美人”は揃って自由闊達な彼女達に嫉妬していました。
 
 けれど、沈んだ空気を一掃するように
「私達は」とおきたが言うと、三人揃って
「寛政の三美人!」と明るい声を出しました。
 三人はまた、鑑賞する人達を見ながら話を弾ませ始めました。
 浮世絵展覧会はまだまだ続きます。

-FIN-

作成 2020.09


テーマ 浮世絵“当時三美人”に描かれている三人の美女が鑑賞してる人たちを見てお喋りをしているフィクションを創る。

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