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シンプルが一番!

 京都西陣に住む我が家の正月は、大晦日の昼にお風呂に入るところから始まる。夕方、年越しそばを食べ、家族全員で紅白歌合戦を観る。その頃にはもう既におせちに手が伸びている。そして除夜の鐘を聞いてから、
「あけましておめでとう、今年もよろしく」
 と、全員であいさつ。一旦、眠りにつき、朝六時頃にお雑煮を食べる。食べてばかりのお正月が、ここから始まるのだ。
 
 けれどもそのお雑煮は、なんともシンプルだ。昆布だし、白味噌、丸餅に花かつお、それだけである。
 物心ついた頃からこのお雑煮だったので、京風の白味噌に丸餅、頭芋、人参、大根などが入っているお雑煮が、どんな味がするのか、四十二歳になった今も知らないのだ。
 
 小学生の頃、同級生の家のお雑煮の具を知った時は、びっくりしたのと同時に、すごく悲しくなったのを覚えている。
「えーっ、人参が入ってるのぉ? 大根も?」
 母にそのことを言うと、母は笑って教えてくれた。
「我が家のお雑煮がお餅だけなんは、お父さんの偏食のせいなんや」
(ああ、そうか、納得。お父さん好き嫌い多いからなぁ。それにお父さんの決定したことは絶対やし)
 と得心しているところへ、母が、
「お母さんの育った広島では、お澄ましに、牡蠣やかまぼこ、白葱を入れたお雑煮を食べてたよ」
 と懐かしそうに言った。
(お母さんも悲しいのかな、今のお雑煮)
 けれどそれは言わなかった。あのシンプルなお雑煮が我が家のオリジナル、それが一番だ、と思えたからだ。母もきっとそう思っているに違いない。
 
 今年二〇〇九年もまた、相変わらず家族四人が集まって、新年を迎えた。ありがたいことに、ここ数年、何事もなく過ごせている。
 その膳に並ぶのは、父の好みのお雑煮と、母の手作りのおせちである。
 そして、食べてばかりのお正月が終わると、確実に体重が増えている。でもそれは、幸せな我が家の証なのかもしれない。

-FIN-

 作成 2009.01


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