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ちょっと寄り道

 今年、小学二年生になったちぃちゃんは、ママのおつかいが出来るようになりました。
 今日も、玉子の6コパックと、袋ラーメン4つを、スーパーに買いに行きます。
 ちぃちゃんの家から大通りへ出て、一つ目の信号を右に行くと、スーパーがあるのですが、ちぃちゃんは近ごろ、その信号を左に曲がって、歩いて5分程のところにある、大きな病院が気になっています。
 それは、もう半年以上も、パパがその病院に入院しているからでした。
 
——大好きなパパ。いつ帰ってくるの?
  帰ってきたら遊園地へ連れて行って。
  クマさんのぬいぐるみも買ってね。
 と、ちぃちゃんは、パパに言いたいことがたくさんあります。だけど、ママとふたりでお見舞いに行くと、パパはママとばかり話をして、ちぃちゃんには、
「元気か、ちぃ。ママの言うことをよく聞いて、いい子でいるんだよ」
 と、決まり文句なのです。だからちぃちゃんは今日、おつかいの前に寄り道をして、初めてひとりでパパのお見舞いに行こう、と一大決心をしたのでした。不安もあるけれど、パパに会いたい気持ちで一杯のちぃちゃん。
 信号を左に曲がって、ちぃちゃんは、勇気を出して歩きはじめました。
 
 病院に着くと、ママがいつもしているように、入院病棟のナースステーションにご挨拶。
「いつもパパがお世話になります」
「あら、ちづるちゃん。ひとりで来たの? えらいわ。パパは312号室、四人部屋に変わったのよ」
 と、看護師長さんが教えてくれました。
(そうなんだ。お行儀よくしなきゃ)
 ちぃちゃんは、病室にパパの姿を見つけると、小声でパパを呼びました。
 パパは驚きながらもニコニコして、
「よくひとりで来たね。ちぃも一人前だな」
 と、誉めてくれました。
 ちぃちゃんは、本当のことを言いました。
「おつかいの途中だけど、パパに会いたくて、ママに内緒で来たの。ごめんなさい」
 パパは怒らずに、大きな手でちぃちゃんの頭をなでて、優しく頷きました。
「ママには電話をしておこうな」
 ちぃちゃんは知らなかったけれど、パパは手術を二回していて、今は、順調に回復しているのでした。
 
 パパに会ったら、いろんなおねだりをしたかったちぃちゃんですが、パパが元気になってくれるのが一番だ、と思いました。
 もう一ヶ月もすれば、パパは退院出来るので、ちぃちゃんのところへ帰ってきます。
 よかったね、ちぃちゃん。

-FIN-

作成 2020.01


テーマ タイトル『ちょっと寄り道』のフィクションを創る。

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