その夜、川岸で、河童たちの祭りが始まった。
どどんどん、どどんどん。
太鼓の音が響き渡り、川面を揺らす。
ぱぱーん、ぱぱーん。
花火が上がり、夜空を照らす。
そして河童達は、急流を臨みながら、朝まで踊り、歌い明かすのだ。
「川よ、目覚めよ、祭りの時が来た」
「川よ、目覚めよ、祭りの時が来た」
この河畔の菖蒲(しょうぶ)の葉の上に、今朝生まれたばかりの朝露ロジィは、祭りの様子を見て、居ても立ってもいられない。
「私も、この川の一滴(ひとしずく)になりたいな」
その独り言を聞いた、菖蒲の水滴ゼナが、
「いいだろう。だが、心の準備は出来ているかね? 川の最終地点は海だ。私達はこれから、川から海へと進んで行くのだよ」
と言った。ロジィはすかさず答えた。
「はい! 心構えは出来ています!」
海。どんな所だろう。ロジィは川の流れの速さに、驚きを隠せずにいたものの、海の広さへの憧れはあった。
河童の手のひらに体を預け、菖蒲の葉から、川面へと運ばれたロジィ達。
異なものに対して、川はうねる、渦を巻く。水飛沫(みずしぶき)が飛び散ると、ようやくロジィ達は、川の一滴(ひとしずく)になれたのだった。
祭りは続く。
どどんどん、どどんどん。
ぱぱーん、ぱぱーん。
河童達は太鼓を叩き、花火を打ち上げる。
しばらくその光景を見ていたロジィだったが、水滴ゼナの、
「私達はもう出発しよう。海を目指すんだ」
という合図に、意を決した。
「必ず海にたどり着いてみせるわ」
水滴達は、海までの道程(みちのり)は厳しい、という。
けれどロジィにとって、海を見ることの喜びの方が、勝っていた。
しかし川は激流となって、容赦なくロジィ達水滴の体を、川面から弾き返す!
「水滴同士、体を寄せ合うんだ!!」
ロジィはゼナの声に、仲間とがっちり体を寄せ合った。すると一滴、二滴、三滴と、水滴がどんどん重なって、一本の細い流れとなった。それはまさしく新しい川だった。
その川は激流にぶつかり、二つの川が合わさって、広大な川へと変化したのである。
ゆったりと悠然と流れる川。ロジィ達水滴は、川の一部になり、歓喜の声をあげながら、暁の海へと走っていった。
海の後ろに、祭りの川の余韻が残る。
遠くで、河童達の歌声が、かすかに聞こえてくる。明けの空を見上げると、残り花火の輪っかが、薄く細く光って、消え入った。
-FIN-
作成 2019.11
テーマ “一滴の水”を主人公にしてフィクションを創る。