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ミーシャのお土産

 「さあ、出発だ!」
 春の陽気に、冬眠から目覚めた子熊のミーシャは、森の探検に出掛けます。
(ママは心配するけれど、へっちゃらさ!)
 初めての探検に、ミーシャの心はワクワク、ドキドキ、何の恐れもありません。
 
 森の中をどんどん進んで行くと、桧の木陰で昼寝をしている、若い狐がいました。
 狐はミーシャに気付くと、
「おや、子熊くん、お散歩かい。いいねぇ。だけど気をつけなよ。この辺は、桧の木が多いからな」
 と、言いました。
 ミーシャは何故、桧に気をつけなければいけないのか、わかりません。
「それは、どうして?」
「子熊くんは“花粉症”を知らないな?」
「カフンショウ?」
「そうさ、花粉で粘膜がやられて、鼻水やくしゃみに苦しめられるやつさ。この桧や、杉なんかの花粉が要注意だ」
 ミーシャは、そんなのはイヤだな、と思うと同時に、ある疑問が湧きました。
「狐さんは、平気なの?」
「さあ、ね。俺は性格が、ひん曲がっているから、花粉症にはならないのかもな。ま、何にせよ、気をつけて行きな」
 そう言うと、狐はまた眠ってしまいました。
 ミーシャは、狐さんは優しいよ、と狐に向かってつぶやきました。
 
 ミーシャは、桧と杉には注意して行こう、と決めて、再び、どんどん進みます。
 そのまた途中、開けた草原に出ると、二匹の兎に出会いました。けれど、茶色い毛の妹兎が、目を真っ赤にして泣いています。
「どうして泣いているの?」
 ミーシャが尋ねると、薄いグレーの毛をした兄兎が、冷静に言いました。
「花粉症だよ。桧や杉の花粉を逃れて、この草原まで来たのに、まだ治らなくて……。多分ここに、イネ科の植物があるんだと思う」
 ミーシャは、森に住むって大変なんだな、と、改めて思いました。

 しばらく草原で遊んでいると、森の西側が赤く染まりはじめました。
(あ、帰らなきゃ、ママが待ってる!)
 ミーシャが戻ると、お母さんが、
「お帰り。楽しかった? 何を見て来たの?」
 と、訊きました。ミーシャは“花粉症”のことを言おうとしました。すると、
「あのね、今日……、クシュン、クシュン!」
 と、くしゃみが止まらなくなったのです。
「あらあら。花粉症のお土産まであるのね」
 お母さんは、ミーシャの顔を拭きながら、笑ってそう言ったのでした。

-FIN-

作成 2019.05


テーマ 動物の世界で起こる花粉症にまつわる物語を創作する。

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