とおい昔、ある年の神在月(かみありづき)に、出雲国(いづものくに)の暦を司る神様から、
"次の年から暦の大将を動物達に、一年交代で勤めさせる"
という、お達しがありました。
動物達は大喜び。早速、鼠、牛、虎、兎、竜、蛇、の順に神様の元にやってきて、
「私を大将にして下さい」
と願い出ました。
「よしよし。最初に到着した動物(もの)から順番としよう。……さて、六番目まで決まったね」
そう言った神様でしたが、ちょっと困ってしまいます。もう少し沢山の動物達が、集まって来てくれる、と思っていたからです。
その頃、山代国(やましろのくに)の片田舎で、立派な体格の青鹿毛(あおかげ)の馬が、稲を刈り入れていました。
馬は、神様のお達しを聞いて、すぐにでも駆けつけたかったのですが、一緒に働いているお爺さんのことを思うと、そうもいきませんでした。
お達しが出てから五日後、羊が馬を訪ねて来ました。羊は、寝るのが仕事なので、今日ようやくお達しを聞いた、とこぼすと、
「僕はどうしても大将になりたいんだ。君は足が速いから、僕を神様のところへ送ってくれないか」
と馬に頼みました。
すると、その様子を見ていた鶏も、
「僕も是非お願いするよ。僕は毎朝、日の出の時間を皆に知らせる役目があるから、今まで行くのをためらっていたんだ」
と請うたのです。
馬は迷います。
(僕だって大将に憧れている。だけど、お爺さんを一人にはできないよ……)
そんな馬に、お爺さんは言いました。
「行っておいで。儂のことは心配いらん。秀でたお前が大将にならんでどうする。それに、この動物(もの)たちも、お前の足を必要としとる」
馬は、神様の元へ行く決心をしました。
準備をしていると、犬と猿がやってきて、
「僕達も連れてって」
と懇願しました。二匹は、このお達しが本当かどうか考えているうちに、出遅れたと言うのです。
それから、足の速い猪までもが、
「一緒に行きたい」
と泣きついてきました。猪は方向音痴で、一匹では出発できなかったのです。
「よぉーし、それじゃ、全速力で行くよ。皆、振り落とされないで。猪くんも、ついて来て」
馬の頭に鶏が、たてがみに犬が、背中に羊が、尻尾に猿がしがみつき、あとから猪がついて来るのを確かめると、馬は疾風(はやて)のごとく、力いっぱい駆け抜けました。馬が走った跡には、流れた汗が星となってきらめきます。
神様は動物達を歓迎しました。
そして、七番目の大将を決めようとしました。その時、羊も、鶏も、犬も、猿も、少し遅れて着いた猪も一斉に、
「馬くんがここまで連れて来てくれました。七番目の大将は馬くんです」
と言ったのです。
神様がにっこり頷くと、馬は誇らしげに、
"ヒヒーン"
といなないたのでした。
-FIN-
作成 2018.5
テーマ 「私の干支(馬・午)はなぜ7番目になったのか」の昔話(フィクション)を創る。