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赤い角は森に輝く

 ここは、深い深い森の奥。
 いつの頃のことか、誰も知らない年月(とき)の中で、一つの生命が生まれた。それは馬の姿をしていたが、額に1本の長い角が天を突くように生えていて、真っ白なその躯(からだ)は、異様な光を放っていた。
 森に住む動物達は、この奇怪な生物を警戒し、受け容れようとしなかったが、火の妖精ホロと水の妖精ナルは、この生物に"タルカス"という名前をつけ、可愛がった。
 
 ある日タルカスは、森に〈邪悪なもの〉が近づくのを察知する。
「ホロ! ナル! 皆を避難させなければいけない。森に危険が迫っている!」
 妖精であるホロとナルには、それが人間のことだと、すぐにわかった。
 2人から、人間の恐ろしさを教わったタルカスは、自分を了知している森の長老の梟に、全てを話し、懇願した。
「今、森にいる皆をひとつにまとめられるのは、あなただけです。皆を避難させる間、私と妖精達で、人間の進行を食い止めます」
 梟は、タルカスの真っ直ぐに見つめるその目に納得し、動物達の安全を約束した。
 
 ザッザッザッザッ、
 ザッザッザッザッ。
 
 人間は一団となって、手に銃を、心に邪念を携えて、一歩一歩森に近づいて来る。
 タルカスは遥か前方を見据えて、仁王立ちとなった。ホロは炎の塊と化し、ナルは両の手に水の玉を作り、2人もタルカスと共に息を潜め、その時に備えた。
 
 ダダーン、
 ダダーン。
 
 銃の音だ。
 邪念はますます大きくなり、森を覆う。
 
 人間は無造作に森に分け入り、タルカス達と対峙した。
 初めて見るタルカスの美しい姿に、驚嘆した人間は、タルカスを生け捕りにして、飼い慣らすことを考え、取り囲んだ。それに怒りを覚えたタルカスは、長い角で人間を一突きにしようと身構えた。
 タルカスの思いに気付いたホロとナルは、互いに顔を見合わせ、頷き、こう言った。
「タルカス、人間を殺してはいけないよ。そんなことをすれば、君も人間と同じになる」
「その角は、傷つけるためにあるんじゃない。もっと違った使い方があるんだ」
 こう告げると、ホロが幻火を起こし、人間を木の根元に追いやると、ナルが水の縄で縛り上げた。
「さあ、タルカス、その角で、人間を邪念から解放するんだ」
 2人の言葉に、タルカスは戸惑いながらも、今度は慈しみの心で、角を人間に向けた。
 すると、角は見る間に赤くなり、煌々と輝き出した。輝きは森を照らし、驚愕する人間を包み込むと、光の玉となった。しばらくして玉の中から黒いもやが現れると、そのまますうっ、と失せ去り、やがて光の玉も消え失せた。
 それは人間の邪念だったのか……。
 我に返った人間は、自分達に何が起こったのか分からず、足早に森から去って行った。
 タルカスは、ホロとナルに感謝した。
「有難う、ホロ、ナル。これから私が森のために出来ることが、少し見えたような気がする」

 こうして森を救ったタルカスは、森に住む動物達にも迎えられ、日々平穏に暮らした。
 平和な暮らしの中で、誰が言うともなく、タルカスのことを、"愛の戦士・ユニコーン(一本の角)"と呼ぶようになったという

-FIN-

作成 2013.12


テーマ ユニコーンをテーマにしてフィクションを創る。

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