ざわつく教室にイライラした私は、それでも、一言の注意も発せずにいる。教壇の前で肩を落とす私に、降りかかる言葉。
「日比野(ひびの)さぁん、学祭の出し物、そっちで決めてくんない? 私達、早く帰りたいしぃ」
私達の女子高はミッションスクールで、学園祭は寒空の中の十二月に行われる。何の因果か、二年一組の実行委員に選ばれた私は、一人教室に取り残されてしまった。
次の朝、またも教室はごった返していた。
〈学園祭の演目=クリスマス・キャロル〉
と黒板に大きく書くと、私は深呼吸をし、
「学園祭は讃美歌を歌います!」
と叫んだ。
すると教室が一瞬、ピタリと静まり、そして爆発した。
「えーっ、歌うのぉ」
「勝手に決めないで下さーいっ」
「一人で歌えばぁ?」
——予想通りの反応で、私は何だかおかしかった。私は構わず続けた。
「三〜四曲を暗譜で歌います。何番を歌いますか?」
少し間(ま)を置いて、スッと、手が挙がった。コーラス部の槙村(まきむら)さんだ。
「103番、109番、112番(※注1)がいいと思います」
他の手も挙がっている。あれは演劇部の吉川(よしかわ)さん。
「キャロリングなら、白い服で揃えて、キャンドルを持つのはどう?」
その言葉に、反抗的・無関心だったクラスメートも聞き耳を立てている。
「私が衣装とキャンドルの調達をリードするから、日比野さんは学祭の準備をお願い。槙村さんは合唱の方を頼むわ」
吉川さんが一気に言い終えると、その明確さに、皆、圧倒されて思わず頷いた。
私はそれを受けて、
「全員参加でお願いします!」
と叫んでいた。私の声には反応しなかった人達も、
「はぁーい」「面白そう」「楽しみね」
と、口々に言い始めている。複雑な思いはあるけれど、うれしかった。何より、協力者がいてくれたことに感謝だ。
「槙村さん、吉川さん、ありがとう」
そうお礼を言うと、槙村さんが、
「混声の楽譜を女声三部に編曲してみるわね」
と言ったので、(さすが!)と吉川さんと顔を見合わせた。
それからというもの、二年一組の勢いは凄かった。吉川さんの指示のもと、洋裁の得意な子が集まってケープを作り、編物が上手な子は毛糸でベレー帽を編んだ。キャンドルも手作り感を出している。合唱の練習も順調のようだ。私も裏方として負けてはいられない。
学園祭当日。
二年一組はお揃いの白いベレー帽と白いケープで登場。赤と緑のキャンドルに火を灯して、暗い講堂の壇上へと上がる。
揺らめく火影に、学園祭までの道のりが見える。最初はまとまりがなかったけれど、皆、頑張ったと思う。今はクラス全体の団結力さえ感じる。
今日は、その集大成だ。
ドキドキする鼓動を静めながら、指揮者である槙村さんの指先に集中する。
そして。
♪まーきーびーとー、ひーつーじーをー……
(※注1)讃美歌 103番「まきびとひつじを」109番「きよしこのよる」112番「もろびとこぞりて」
-FIN-
作成 2013.01
テーマ 蝋燭の火が出てくるフィクションを創る。