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白鳥のレンコ

 毎年十一月には、三千km以上も離れた北の大地シベリアから、ここ北海道の風蓮湖に、白鳥の一団が飛来します。レンコはその一団の一羽でした。
 レンコには額に三日月型の模様があるので、すぐにわかります。今から八年前、四歳だった風太(ふうた)に、
「僕、今からあの鳥のこと、〝レンコ〟って呼ぶよ。僕の名前と合わせて〝風蓮湖〟になるんだよ!」
 と名付けてもらいました。
 今年も、白鳥たちが風蓮湖にやって来ました。風太の家族は早速足を運ぶと、風太はすぐにレンコを見つけました。
「レンコぉ、今年も来たねーっ!」
 するとレンコは、それに呼応するように、
「コオーッ」
 と鳴きました。けれど、その声に力がありません。レンコはもう十五歳、体力が落ちてきているのでしょう。
 それでも、風太が心配そうに見ていると、レンコは湖面をスイスイと泳いでみせました。
 しばらくして、ふと見ると、十ヶ月になる妹の桜子(さくらこ)が、よちよち歩きのまま湖に入り、溺れかけているではありませんか。
 桜子の背負った小さなピンクのリュックが、かろうじて桜子の小さな身体を、浮き上がらせていたのでした。
 風太はドキリ、としました。お父さんとお母さんに、少しの間桜子と一緒にいてね、と言われていたからです。
「レンコ! お願いだ、桜子を助けて!」
 風太は足をガクガクさせながら、震える声で、思わずレンコに助けを求めました。
 レンコはそれを受けて、白鳥たちに、
「クォーッ!!」
 と呼びかけました。
 すると、何ということでしょう。
 白鳥たちが一列に並んで翼を広げ、まるで湖に白い橋が架かったかのような光景が、風太の目の前に現れたのです。
 レンコは、小さいながらも五、六kgはあろうかという桜子を、翼の橋に乗せました。そして岸辺にたどり着くまで、そのたどたどしい足取りを見守りました。それから、風太がずぶ濡れの桜子をしっかりと抱きしめるのを、優しい目差しで見つめました。
 しかし、レンコはそこで力尽きてしまいます。湖深く沈んで、二度と浮かび上がってきませんでした。
 薄れゆく意識の中でレンコは、風太との友情を思い出していました。
 大好きな風太。その風太の妹を助けることが出来て、レンコは心から満足しています。
 最後にレンコの耳に聞こえてきた言葉は、風太の、
「レンコぉ、ごめんよぉ、ごめん……」
 という涙声だったかもしれません。
 いつも美しい姿をしていたレンコ。風太はその姿を、決して忘れはしないでしょう。

-FIN-

作成 2013.10


テーマ 〈連動課題1〉 世界やあるいは広い範囲を回る物を主人公にフィクションを創る。
 

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