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〈青〉の演出

 〈青色〉は、自然界にその色が少ないため、昔から人間の憧れの対象だったそうだ。また、気分を落ち着かせる鎮静作用があるという。心が平穏になって、本能的な衝動が抑えられ、冷静な判断がしやすくなるのだとか。なお、知性を表す色としても知られている。
 私にとっての〈青色〉は、今も昔も好きな色ではあるけれど、その意味するものは、世間でいわれているそれとは、大きく違う。
 今から二十年も前、二十七、八歳の頃に、私は一人暮らしをしたことがある。一歩踏み入れたその部屋には、私の[夢]と[希望]と[憧れ]が詰まっていた。最初に悩んだのは、部屋のインテリアだった。好きな青色を基調に、カーテン、じゅうたん、整理ダンスにふとんカバー、机と揃えていった。青色の家具に、私はそれだけで満足していた。
 ところが、一人暮らしは二年と経たず頓挫する。多分その時の〈青色〉が、〝気分を落ち着かせる〟よりも、〝寂しさ〟を強調したのだろう。あれほど気に入っていた青の部屋よりも、多種多様の色が混在する実家に帰りたくて仕方がなかった。そうして実家に帰った時、私の部屋には、別の家具が既にあった。青の家具たちは、何も言わずに屋根裏で眠りについた。いつかまた、使ってもらえる日が来ることを信じて。
 果たして青の家具たちは、それから十五年後に再び日の目を見る。それというのも、家族全員で、一軒家からマンションへ引っ越しをしたからである。私の部屋は京間の六畳から江戸間の六畳になり、ずいぶん狭くなった。けれどそのことが、私なりの断捨離を始めるきっかけにもつながり、もう一度、真新しい部屋をコーディネートすることも嬉しかった。
 それから青の家具たちは、マンションの一室で生き生きと輝きだした。まるで、本当の我が住処を得た、とでも言うように。
 今度の〈青色〉はとても心地よいものだった。一日活動した後、帰宅し、家族と同居している安心感もあって、ぐっすりと眠りにつき、朝日が昇ると同時に目覚める。この日常こそがまさに、至福の時なのだろう。
 部屋のコーディネートの最後に私は、整理ダンスの上に、青い置物を並べた。
 ロイヤルコペンハーゲンの飾り皿、サンタフェという名前の青い猫、星の王子様、青い小さなヘビ。
 そして、青いクマを置いた。これには、
せるな、こるな、ばるな、さるな、けるな』
 という自戒の意味が込められている。
 この置物たちは、青い色をしているけれど、冷静さを保つというより、ある種の熱情、つまり私の大好きな空想の世界へとみちびいてくれる。そこには順風満帆の私がいるのだ。
 だからこそ私にとっての〈青色〉は、単に好きな色というだけでなく、現実の心地よい日常と、空想の中の幸せな空間を演出する、必須アイテムなのである。

-FIN-

 作成 2013.11


テーマ 〈連動課題2〉 その場を動かず環境が良ければ悠久の命を持つものについてエッセイを書く。

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